B! ゴロビシャ ネメシスの使い魔

【要約】AI時代の人生戦略―「STEAM」が最強の武器である 著者 成毛 眞

AI時代の人生戦略―「STEAM」が最強の武器である

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)

著者
成毛 眞

 
 
要約
 

近年教育分野で「STEM」が注目されている。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字から名づけられた概念で、アメリカでは、バラク・オバマ元大統領がSTEM人材の育成を教育の最優先課題としたことでも話題を呼んだ。本書は、STEMにArt(芸術)のAを加えた「STEAM」の重要性を説く一冊だ。
著者は元日本マイクロソフト社長で、現在はインスパイア取締役ファウンダーなどを務める成毛眞氏。著者は、50代以上は逃げ切れても、若い世代は、理数系がわからないとビジネスでは生き残れないと警告する。今後、多くの仕事がAIやロボットに奪われると言われるが、STEAM知識を学んでおかなければ、「AIを使う側」にはなれないのだ。

そこで本書では、STEAM分野の重要性と、STEAMを身近に学ぶ方法を解説。学ぶとは勉強だけでなく、最先端技術を体験すること、人間ならではの感性を磨くアートに触れることもなども含まれる。また、書評サイト「HONZ」代表でもある著者らしく、多数の推薦書籍も紹介されている。SF小説を読むこともSTEMに親しみ、それを活用する創造力を養うために有効なのだ。

成毛氏と堀江貴文氏、文部科学大臣補佐官の鈴木寛氏との対談も収録され、教育から医療にまで話題は及ぶ。急速に進化するテクノロジーから取り残されないために、特に「理数系が苦手」と感じている方には必読のSTEAM入門書である。

要約
これからは「STEM」が必須

私たちはサイエンスやテクノロジーに囲まれて生活している。「人工知能」や「ロボット」、「ドローン」や「自動運転」などの単語は珍しくなくなっている今、苦手だから、興味がないからと、理数系の話を遠ざけるのは危険だ。

では、どうすればいいのか?「STEM」+Aの「STEAM」を学べばいい。加えて、SFも。STEMとはサイエンス(科学)の「S」、テクノロジー(技術)の「T」、エンジニアリング(工学)の「E」、マセマテイックス(数学)の「M」を並べた造語だ。

STEMはアメリカでは1990年代から使われてきたが、注目を集めるようになったのは、バラク・オバマが大統領になってからだ。オバマは、2012年の「OECD経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査」(PISA)で、アメリカが「数学的リテラシー」36位、「科学的リテラシー」28位、「読解力」24位と低迷したことを受けて、STEM教育を重要な政策課題とした。

日本はアメリカに比べるとだいぶマシだが、2003年に6位だった数学的リテラシーが、2006年には10位、2009年も9位にとどまって、韓国やフィンランドの後塵を拝した。これは“PISAショック”と呼ばれ「ゆとり教育」の弊害と指摘された。この世代はクリエイティブな人材を輩出しているので、私自身はゆとり教育に否定的ではないが、クリエイティブであるにしても、そこに科学的根拠は必要になる。

そもそも、ゆとり教育以前にも以降にも“理数系が苦手な大人”はたくさんいる。苦手であるがゆえに、三角関数二次方程式は必要ないと主張する人がいるが、三角関数なくして測量やゲーム開発はできないし、二次方程式が解けなければ、宇宙開発など夢のまた夢だ。それ以前に、数学はものごとを理知的・論理的に考える力を養ってくれる。

日本における教育の問題は、学校でどう教えているかというよりも、理数系に弱い大人による社会全体の洗脳にある。2015年のPISAでのアンケートで「学んでいる時はたいてい楽しい」と答えた日本の生徒は49.9%。OECD加盟国の平均62.8%を大きく下回っている。大切なのは実体験して、実感してから理解することだ。実体験して気づくと、その根源を知りたくなるし、調べてみたくなる。これこそが自律的な学習である。

STEMとアート(A)が結びつく

STEMに「A(アート=芸術)」を加えた「STEAM」という言葉も生まれている。一方でビジネス界では「デザイン戦略」という言葉も広まってきた。現在のデザイン戦略は、顧客とのコミュニケーションや仕事の進め方そのものもデザインすべきだという考え方に基づいている。

さらに、設計や製造に押されがちだった商品やサービスのデザインを、よりデザイン優位で見直すという意味合いも含んでいる。このとき、デザインする側はSTEMを理解している必要があるし、STEMを専門とする人は、アートを理解しなければならない。

アートをより身近にするには、STEMとは別のアプローチが必要だ。私は古典より現代の作品に触れるほうがいいと思う。現代アートには「インスタレーション」(空間芸術)という表現方法がある。古典芸術に比べ、インスタレーションは、現代人の心のより深いところにある潜在意識を刺激する。だから、自分の潜在意識にあるアイディアを表面化することに役立つ。

そもそも、アートとテクノロジーの進化は、切っても切り離せない。14世紀のルネサンスを支えたのは、印刷技術だ。活版印刷ルネサンスで注目されていた古典の翻訳や聖書の普及に貢献した。19世紀末から20世紀初頭にかけては、ヨーロッパを中心に美術運動「アール・ヌーヴォー」が盛んになった。これは新しい金属やガラスなどの素材と、従来からある石や木のような素材との組み合わせを試みたものだった。

今では、PerfumeやBABYMETALのライブでは、立体物や平面に映像を映す「プロジェクションマッピング」が、当たり前のように使われ、アメリカのロックバンド、OK Goのミュージックビデオ(MV)は、まさにテクノロジーの現状をアートとして見せている。

ユーチューブにオフィシャルビデオがアップされているので、ぜひ「I Won’t Let You Down」や「Upside Down & Inside Out」のMVを見てほしい。前者は小型無人飛行機「ドローン」で撮影したもので、後者は無重力状態の航空機内で撮影したものだ。

こうした舞台やMVをつくるのは、アートのことがわからない人や、最新のテクノロジーに無関心な人には無理だ。STEAMを身につけることは、職を失わないための必要条件でもあり、仕事でクリエイティピティを発揮するための十分条件でもあるのだ。

今ある仕事がない世界

ここ200年ほどの間に、かつて栄えた多くの仕事が失われた。例えば、ボーリングのレーンにピンを並べる仕事、ガスランプだった街灯に火をともす仕事、凍った湖の氷を切り出す仕事などである。

これを昔話と笑ってはいられない。今ある仕事でも、この先数年の間にAIやロボットに奪われる可能性は十分にある。サイエンスやテクノロジーに関心を払わないでいると、街灯が電気化される前日に、ガスランプに火をともす仕事を選択するような悲劇に遭遇しかねない。

2016年5月、アメリカの大手法律事務所が、世界初となるAI弁護士「ROSS」を採用した。このAI弁護士は、主に破産に関する法律のアドバイスを担う。何か質問をすると人間では読みきれないほど大量の法律文書などを読み込み、最適な回答を導き出す。質問するほど習熟度が高まるため、さらに最適な回答が得られるようになる仕組みである。このAI弁護士は今後、多くの“人間弁護士”の仕事を奪うだろう。

一方で、AIやロボットが普及すれば、それまでにはなかったような仕事も生まれる。踏まえておくべきは、AIやロボットを使う側の仕事と、使われる側の仕事が生まれるということだ。AIを使いこなすためには、技術的な知識や数学の能力がいる。少し前なら、ITを使いこなすには知識が必要で、知識がないとITに使われるようになるといわれていたのと同じことだ。

そこで、STEM(STEAM)に目を向け、学習することで、AIを使う側を目指すことが必要になるのだ。また、STEMの知識は命にも関わってくる。例えば、がんの治療法には、がんを切りとる「外科手術」、抗がん剤を使う「化学療法」、それに「放射線治療」がある。だが、身体への負担や副作用、費用はそれぞれ異なることを知らずして、最適な手法を選ぶことはできない。正しい判断を下すには、最先端の医療技術を知っておく必要があるのだ。

理数系を学び直すには、独学で十分だ。だがいきなり難しいことを学ぼうとすると、高校時代と同じになってしまう。まずは面白さを実感し、自ら詳しくなりたいと思うように、自分をけしかける。そうすることが、遠回りなようで近道だ。

独学に最も適しているのは読書であり、まずは1冊、気になる分野のサイエンス系の読み物を読んでみる。本に加えて、案外バカにできないのはテレビ番組だ。NHKを中心に、サイエンス系について詳しく、なおかつわかりやすいものが幾つもある。また、投資家視点で専門誌を読んでおけば、ふと何かのニュースを見聞きしたとき、点と点が結びつくこともある。

世界の経営者はなぜSFを愛読するのか

STEAMの知識はパーツであり、それらを組み合わせて活用する手腕、それを支える思考回路が欠かせない。そのためには、STEAMの知識とは別に「イマジネーション」と「クリエイティビティ」の力が必要だ。両方とも小手先のテクニックでは養われないため、常識にとらわれず、他人が選ばないような道を突き進み、ときに失敗しながら経験値を上げるしかない。

だが、ひとりの人間が体験できる事柄には限りがある。だからこそ、他人の経験値を疑似体験することが活きてくる。では、どうするかというと、「フィクション」小説を読むことだ。それもできるだけ荒唐無稽な小説がいい。おすすめは、SF(サイエンス・フィクション)だ。

ベンチャー事業を次々と立ち上げるイーロン・マスクは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』というSF小説を愛読書に挙げている。ひょんなことから最後の地球人になってしまった主人公が、偶然知り合った宇宙人と宇宙をヒッチハイクする、宇宙版の弥次喜多道中のような物語だ。

彼は「ペイパル」の創業、「テスラモーターズ」での電気自動車(EV)開発だけでは飽き足らず、「スペースX」という会社も立ち上げて宇宙開発に乗り出した。もし彼が幼い頃に妄想力をかき立てられていなかったら、果たして今のような立場にいただろうか。

2016年10月、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが家庭で仮想現実(VR)を体験できるゴーグル型のゲーム機器「プレイステーションVR」を発売した。装着すると、360度の映像空間が出現し、3Dオーディオとの連携によって、目の前に広がる映像の中に入り込むような臨場感を味わえる。

なぜ突然、ゲームの話をしたかというと、VRを真っ先に体験し、当たり前のものとしてとらえられる人と、そうでない人とでは、その先に待っている未来の明るさが違ってくるからだ。前者は、VRありきで新たな可能性やビジネスの種を想像できるようになる。

一方で、VRのニュースをウェブで眺めるだけの人は、その可能性を実感していないため、新たな可能性やビジネスにつなげられない。本人だけではなく、その人の子供の世代で、大きな“経験値格差”も生まれかねない。

大切なのは実感だ。実感してから理解することを、楽しみながら繰り返していれば、時代にとり残されることはない。「どうやったらもっと滑らかな画像表示ができるだろう」「こういうデータをとるには、どんなセンサーが必要だろう」と考える人も出てくるかもしれない。こうした“ふとした疑問”こそが、イノベーションのきっかけなのだ。

 



ようこそ!名無し文学部へ
楽しんでいってください。