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【要約】人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの 著者 松尾 豊

人工知能は人間を超えるか



人工知能は人間を超えるか
ディープラーニングの先にあるもの

著者
松尾 豊

 

現在、人工知能(Artificiall Intelligence=AI)に関して、不安と期待とが入り混じった報道を目にすることが多い。GoogleFacebookなどが人工知能関連企業の巨額買収合戦を繰り広げる一方、スティーブン・ホーキング博士や、ビル・ゲイツ氏などは、人工知能が人類の将来を脅かす可能性を表明している。
そこで本書では、国内人工知能研究のトップ研究者である松尾豊氏が、専門的になりすぎず、絶妙なレベルで人工知能技術の全体像、歴史的経緯と未来について解説していく。技術的な背景もわかりやすく説かれており、前提知識が全くなくても読み進められるはずだ。

現在の人工知能をめぐるブーム的状況の口火を切ったのは、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法の発見にあった。これにより、データさえ与えれば、人の手を離れ機械が自動でどんどん学習していくことができる。しかし、この技術はまだ入口に立ったに過ぎないという。

そのため、著者は人工知能に対し、「恐れるなかれ、侮るなかれ」とでも言うべき冷静なスタンスを取り、AIが人間を支配するといった未来(いわゆるシンギュラリティ論)は現実的ではないとする。またAIが産業構造に与える影響に関しても、長期的で俯瞰的な視野からその実像を解き明かしている。

変化に対し、いかに正しい知識を得て、正しい打ち手を素早く打つかがビジネスの基本だとすれば、本書はまさに人工知能の現状と未来を正しく知るための基本書といえる一冊である。ビジネス観点や科学的好奇心から人工知能に関心を持たれている方は、ぜひご一読頂きたい。

要約

人間を超え始めた人工知能

いま世の中は、人工知能ブームに差しかかり、新聞や雑誌、テレビにも、人工知能という言葉が踊っている。われわれ研究者にとってはうれしい春の到来だ。だが、それは暗くて長い冬の時代も思い起こさせる。

実は、人工知能には、これまで2回のブームがあり、多くの企業が人工知能研究に殺到し、多額の国家予算が投下された。しかし、思ったほど技術は進展せず、人は去り、予算も削られ、長い冬がやってきた。三度目の春で、同じ過ちを繰り返してはいけない。

ポイントは、50年ぶりに訪れたブレークスルーをもたらす新技術、「ディープラーニング」をどう捉えるかにかかっている。人工知能の現在の実力、状況、そしてその可能性を正しく理解するというのは、次のようなことだ。

(1)うまくいけば、人工知能は急速に進展する。なぜなら「ディープラーニング」、あるいは「特徴表現学習」という領域が開拓されたからだ。数年から十数年のうちに、人工知能技術が大きな経済的インパクトをもたらすかもしれない。

(2)一方、人工知能にできることは現状では限られている。基本的には、決められた処理を行うことしかできず、「学習」と呼ばれる技術も、決められた範囲内で値を見つけ出すだけだ。将棋対決など限定された領域で人間を上回ることもあるが、人工知能が人間を支配するなどという話は笑い話にすぎない。

つまり、上限値と期待値とを理解してほしいのだ。人工知能は、急速に発展するかもしれないが、そうならないかもしれない。少なくとも、いまは実力より期待感のほうがはるかに大きい。しかし、その上で、現在は「大きな飛躍の可能性」に賭けてもいい段階なのである。

人工知能の4つのレベル

実は、人工知能についての報道には、「本当にすごいこと」と「そんなにすごくないこと」、「実現しそうなこと」と「実現しそうもないこと(夢物語)」がごっちゃになっている。世の中で人工知能と呼ばれるものを整理すると、次のような4段階に分けられる。

〈レベル1〉単純な制御プログラムを「人工知能」と称している:
マーケティング的に「人工知能」「AI」と名乗っているもの。エアコンや掃除機、洗濯機まで、単純な制御プログラムを搭載しているだけの家電製品に「人工知能搭載」などとうたうが、こういった技術は「制御工学」や「システムエ学」としてすでに長い歴史がある。

〈レベル2〉古典的な人工知能
振る舞いのパターンが多彩なもので、将棋プログラムや掃除ロボット、あるいは質問に答える人工知能など。いわゆる古典的人工知能であり、推論・探索を行っていたり、知識ベースを入れていたりすることで、入力と出力の組み合わせの数が極端に多い。

〈レベル3〉機械学習を取り入れた人工知能
推論の仕組みや知識ベースが、データをもとに学習されている人工知能で、典型的には機械学習(サンプルデータをもとに、ルールや知識を自ら学習する)のアルゴリズムが利用される場合が多い。これらの技術はビッグデータの時代を迎えてさらに進化している。

〈レベル4〉ディープラーニングを取り入れた人工知能
機械学習の入力に使う変数(=特徴量)自体を学習するもの。ディープラーニングがこれに当たり、「特徴表現学習」と呼ぶ。米国では、ディープラーニング関連分野の投資・技術開発・人材獲得合戦が熾烈を極め、いま、最もホットな領域といえる。

例えば、仕分け作業員に指示書を出すとすると、レベル1ではごく簡単な仕分け作業しかできない反面、指示書は数枚で済む。レベル2は分厚い指示書が必要で、レベル3は学習用の荷物サンプルと、荷物のどこに注目するかを教える必要がある。レベル4は何に注目するかも自分で学ぶので、学習用の荷物サンプルを与えるだけでよい。

ディープラーニング」が新時代を切り開く
2012年、人工知能研究の世界に衝撃が走った。世界的な画像認識のコンペティションで、東京大学、オックスフォード大学、ゼロックスなど名だたる研究機関が開発した人工知能を抑えて、初参加のカナダのトロント大学が圧倒的勝利を飾ったのだ。

このコンペでは、ある画像に写っているのがヨットなのか、花なのか、ネコなのかなどをコンピュータが自動で当て、エラー率の低さを競い合う。トロント大学の勝因は同大学教授が中心になって開発した新しい機械学習の方法「ディープラーニング(深層学習)」にあった。

ディープラーニングでは、データをもとに、人間が特徴量を設計するのではなく、コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し、それをもとに画像を分類できる。つまり、これまで人間が介在しなければならなかった領域に、ついに人工知能が一歩踏み込んだのである。

いったん人工知能アルゴリズムが実現すれば、人間の知能を大きく凌駕する人工知能が登場するのは想像に難くない。脳が10倍大きな人間は存在しないが、コンピュータ1台でできることは、100台にすれば100倍になるからだ。

しかし、「シンギュラリティ」論でいわれるような、人工知能が人類を征服したり、人工知能をつくり出したりという可能性は、現時点では夢物語だ。いまディープラーニングで起こりつつある「世界の特徴量を見つけ特徴表現を学習する」こと自体は予測能力を上げる上できわめて重要だ。

ところが、このことと、人工知能が自らの意思を持ったり、人工知能を設計し直したりすることとは、天と地ほど距離が離れている。それは、「人間=知能+生命」だからである。 自らを維持・複製できるような生命ができて初めて、自らの複製を増やしたい欲求が出て、「征服したい」というような意思につながる。

さらに、生命発生と、それが知能を持つことの間には、圧倒的乖離がある。「遺伝子工学と結びつくことで生命化する」と言っても、わずかでも可能性のある方法は提示されていない。映画『ターミネーター』のような世界観は、科学的根拠は乏しいと言わざるを得ない。

近い将来なくなる職業と残る職業

人工知能で引き起こされる変化は、「知能」という、環境から学習し予測する仕組みが、人間や組織と切り離されるということだ。社会システムの中で、人間に付随していた学習や判断を分散できることこそが、人工知能が持つ今後の大きな発展の可能性である。

人工知能がわれわれの仕事に与える影響は、念頭に置く時間で答えが大きく変わる。短期的(5年以内)には、それほど急激な変化は起きないだろう。ただし、会計や法律業務にビッグデータ人工知能が急速に入り込むかもしれない。

中期的(5年から10年)には、生産管理やデザインといった部分で人間の仕事がだいぶ変わってくるはずだ。例えば、監視員や警備員といった仕事は、基本的にセンサー+人工知能で代替することができる。

売上をまとめてエクセルをつくる、定期的に顧客にメールを送るといったルーティンワークは、人工知能がやっている可能性がある。この段階では、まだルーティンでない仕事―顧客の例外対応をする、提案書を書く、などは人間の仕事として重要だ。

長期的(15年以上先)には、異なる領域をまたがって知識を活用することが進み、顧客対応や提案書作成といったことも可能になる。この段階で、人間の仕事として重要なものは大きく2つに分かれるだろう。

1つは、「大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」で、経営者や事業責任者のような仕事だ。こうした判断は、違う状況における判断を「転移」して実行したり歴史に学んだりするしかない。

一方、「人間に接するインタフェースは人間のほうがいい」という理由で残る仕事もある。例えば、セラピストやレストラン店員、営業など、むしろ人間が相手をするほうが「高価なサービス」になるかもしれない。

忘れてはならないのが、人間と機械の協調だ。すでにチェスでは、人間とコンピュータが組んで戦う大会がある。協調が進めば生産性が上がり労働時間が短くなる。「生き方」や多様な価値観がますます重要視されるようになるだろう。

「知識の転移」が産業構造を変える

ビッグデータ時代になり、グーグルやアマゾンが検索やEコマースの領域で強い力を持つようになった。これは、情報を横に束ねていることに相当し、ある領域における検索のパターン、広告の出し方などを、ほかの領域に適用(知識の転移)できるということだ。

すると、顧客行動の中でも重要な特徴量が獲得され、顧客変化への対応力がきわめて早くなる。これは、生物進化における脳の発展と、それに伴う抽象化能力の向上と同じ流れである。

だが、技術の独占に対する警戒も必要だ。アルゴリズムがオープンにならず、「学習済み」製品だけが流通すると、リバースエンジニアリングで分解したり動作を解析したりして仕様や仕組みを明らかにすることが不可能になる。

パソコン時代にOSをマイクロソフトに、CPUをインテルに握られて、日本のメーカーが苦しんだように、人工知能分野でも、同じことが起きかねない。そして今回は、ほぼすべての産業領域に関係するためより深刻であり、いったん差がつくと逆転は困難となる。

一方で、よい材料もある。日本は、古くから人工知能の研究に取り組んでおり、人工知能分野の人材層は厚い。企業の連合体で研究することもありえるだろう。人工知能技術は汎用性が高いので、むしろ複数の企業や産業が協力して取り組むべきである。

現在、特徴表現学習の研究はアルゴリズムの開発競争の段階だが、ここを越えると、データを大量に持っている世界的なプラットフォーム企業ほど有利な世界となる。日本企業はその前に開発競争で勝つ必要があり、逆転までの時間はそれほど残されていないのだ。

 

 

 

 

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