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【要約】2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方 著者 藤野貴教

2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方
 

2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方

著者
藤野貴教

要約
 

昨今、人工知能(AI)に関するニュースや記事を毎日のように目にする。その中には、「シンギュラリティ(2045年には人工知能が全人類の知性を追い越すという考え方)」や、「AIに代替される仕事一覧」など、不安を掻き立てるものも多い。また、AIをうまく使いこなせ、という言説もあるが、では具体的に我々はどうすればいいのかが書かれているものは実は少ない。本書は、そうした疑問に丁寧に答えてくれる一冊だ。

著者曰く、専門家でも意見が分かれるような未来予測に漠然とした不安を覚えることにはあまり意味がない。なぜなら一番大事なのは、「目の前の仕事」をどう変化・進化させるかだからである。そこで本書では、現在の AIの進化の最先端を紹介し、その上で、人間ならではの価値とは何か、営業・接客系、製造系、技術系、事務・管理系のそれぞれで、どのように仕事を進化させるべきかを具体的に解説。さらにはAIに代替されない「幸せな働き方」を体現するロールモデルのインタビューも示す。

著者の藤野貴教氏は、テクノロジーの専門家ではなく、「働きごこち研究所」代表、組織開発・人材育成コンサルタントなどとして活躍する「働き方」の専門家。自身も認める「ど文系」出身者ゆえに、多くの人にとって気になるテーマが、適切な技術解説も踏まえながらわかりやすく解説されている。「AIに仕事が奪われる」というセンセーショナルな報道に不安を覚える方はぜひご一読いただきたい。その未来は以外と明るい。

要約

AIが苦手な領域から人間の仕事の価値を考える
AIが進化していく時代において、私たち人間にはどんな価値を生み出すことが求められるのか?そのヒントは、「AIが苦手なことから人間の価値を考える」ことにある。

人間の仕事の価値をマトリクスで分類すると、横軸は左に「論理的・分析的・統計的な能力」、右に「感性的・身体的・直感的な能力」がおける。次に縦軸の下は、仕組み化された中で大量に実施する能力(構造的)で、上には、まだ仕組み化されていない物事に対して、問いを立てて仕組み化させていく能力(非構造的)がおける。

4つに仕切られた区分のうち、左下(論理的・分析的・統計的×構造的)が AIの得意な領域だ。コンピューターは「疲れない」し「飽きない」。もし今の自分の仕事の大半が左下の領域で占められていたら、「近いうちに AIに代替されるかもしれない」という危機感を持ったほうがよい。

次に、残る3つの領域で求められる能力や仕事の仕方を考えてみよう。今の自分たちの仕事を以下の3つの領域にどう進化させていくかを考えることが、「人工知能時代の幸せな働き方」を生み出すヒントになる。

 

左上の領域(論理的・分析的・統計的×非構造的):「コミュニケーター」
「まだ仕組み化されていない物事に対して問いを立て、論理的に分析していく仕事」は「仮説を立てる」仕事だ。非構造的なモヤモヤしたイメージを言葉にしていく意味で、「コミュニケーター」と定義できる。 AIがどれだけ高速で大量の分析ができるとしても、「何のために分析するのか」を考えるのは人間だ。

 

右下の領域(感性的・身体的・直感的×構造的):「モデレーター」
仕組み化された仕事において、人の感情を察して相手に働きかける「ホスピタリティ」が求められる仕事は、AIより人間が得意だ。こうしたことが得意な人、すなわち「人が好き」で「場に安心感」を生み出すこの領域の人々を「モデレーター」と名づける。

 

右上の領域(感性的・身体的・直感的×非構造的):「イノベーター」
この領域では、感性・直感が豊かで、かつ問いを立てるという両方ができることが必要になる。既成概念にとらわれず、自分の感覚や発想で、今までにない新しい価値観を生み出す仕事は、まさに「イノベーター」といえる。

 

人間の価値を出すために仕事をどうシフトさせるか


営業・接客系:
では、具体的な職種をどう右上の方向にシフトさせていけばいいだろうか。例えば、営業・接客の仕事を変化させていく上で参考になるものに、IBMの AI・Watson(ワトソン)を活用して、コールセンター業務を進化させたみずほ銀行の事例がある。

この事例は、 AI導入前は紙のマニュアルを基に対応していたコールセンタースタッフが、 AIが提示する「回答事例」を参考にして、スピーディーな対応ができるというものだ。これによりスタッフは、「心」を使う仕事に注力できる。相手の状況や感情を察し、急いでいる人にはスピーディーに、時間のある人には丁寧に対応できるようになった。

こういう「人間の心」を使う仕事を「ヒューマンタッチ」と呼ぶが、営業・接客の仕事は、どんどんこの方向にシフトしていくことが求められる。これが、先に示したマトリクスにおいて、「感性的・身体的・直感的」な領域(モデレーター)に仕事を進化させるヒントだ。

また、左上の「仮説を立てる」領域(コミュニケーター)に進化するには、顧客の声、クレーム事例、成功事例、納品物の稼働データといったデータと「仲良しになる」ことだ。そうすれば、今までにない提案や、1人1人の要望に即した接客をすることができる。

例えば、プログラミング知識がなくてもデータ分析ができる「DataRobot(データロボット)」というサービスがある。大量のデータを読み込ませて、「何を分析したいのか」という目的を設定して開始ボタンを押すと、「予測モデル」を自動でつくってくれる。その時間はわずか3分程度だ。

このようなツールを手軽に使える時代において、人間に必要な能力は「何を予測したいのか」という「問いを立てる」こと、そして AIが導き出した選択肢から「意思決定」し、実際に行動に移すことだ。「 AIが人の仕事を奪う」ではなく、「どの仕事を AIに任せたら、人間はもっと価値の高い仕事に時間をあてることができるか」を考えることが本質なのだ。

 

事務・管理系:
事務・管理系の仕事を進化させるためのキーワードは、

①前例踏襲型から未来志向型へ、

②数字だけでなく人を見る、

コストセンターからプロフィットセンターへ、の3つだ。

①の未来志向とは「これからの変化を捉えて、自らの仕事を変化させていく」ことだ。これには大きなエネルギーを使うが、だからこそ人間にしかできない。組織のメンバーを巻き込むためには、感情的なコミュニケーションが不可欠だ。それゆえ②の数字を管理することだけでなく、「人を見る」ことにもっとシフトすべきだ。

さらに、AIを活用することで、③利益を生み出す部署(プロフィットセンター)に進化できる。なぜなら人工知能時代においては、「業務の中で収集できたデータから学習させた予測モデル」が価値を生むからだ。

例えば「退職率の予測モデル」は、退職者に悩む同業他社にとっても価値がある。すでにそんなチャレンジに取り組んでいる事例もあり、ある商社では、人事部門に寄せられる問い合わせと回答内容をデータ化し、自動応答するチャットボットの開発を始めている。

「社内のデータを他社と共有するなんて、セキュリティ的にあり得ない」という今までの考え方から、「こんなやり方がある」と発想を逆転させる。これができるようになったとき、マトリクスの右上である「イノベーター」の領域に足を踏み入れることができるのだ。

組織のリーダーはどう進化していけばよいか

世の中やビジネスのやり方が変わっていく中で、組織のリーダーに求められることも変化する。人工知能時代のリーダーに求められる能力は、ずばり

①テクノロジーの最前線を常に学び続ける、

②自らが率先して AIを活用する、

③社内の多様なメンバーを巻き込む、

の3つだ。

21世紀は、テクノロジーが経営を進化させる最も重要な要素だ。リーダーにおいて、テクノロジーを学ぶとは、プログラムが書けるということではなく、「エンジニアと共通の言語で会話ができる」ことである。「自分は AIのことがわからないから、考えて提案して」という仕事の仕方では、メンバーはついてこない。もちろん細かい技術的な部分はエンジニアに任せればいいが、「大きな方向づけ」を行うのはリーダーの仕事だ。

②の「自らが率先し、AIを活用する」ことの実践において、最も有効なのは、社内において「 AI活用プロジェクトをリードする」経験を積むことだ。アイデアソン(アイデアを出し合い、実現方法まで詰める場)の開催も有効だ。その際、 AIに詳しいエンジニアも同席させ、アイデアを社員自ら実行することが、リーダーとしての大きな経験になる。そして、エンジニアと協働する経験が、テクノロジーに強いリーダーを育てることにつながるのだ。

③の社内の多様なメンバーを巻き込むために必要なことは、「何のために AIを活用するのか」というビジョンを語ることである。「効率を上げる」ことは手段であり、効率を上げてどんな会社にしたいのかを考えることが、ビジョンにつながる。

例えばマイクロソフトが公表したのは、「人間中心の AI」というビジョンだ。AIを人間に「置き換える」のではなく、人間の「能力を拡張」させる。だからこそ「人間の幸福とは何か」を考えて AIを開発していくとナデラ CEOは語っている。

あるメーカーでは、次世代リーダー育成のために、対象となる社員を AI活用プロジェクトに積極的にかかわらせ始めた。「今の仕事のどの部分を AIに任せるか」「人はどういう仕事で価値を発揮するか」「そもそも業務のどのフローを見直すべきか」、 AI活用を進めると自然と生まれるこうした問いは、まさに働き方改革を実現する問いそのものだ。世の中の大きな潮流は「人間の幸せとは何か?」を考える方向に向かっている。

人間の強みを突き詰める

ある人工知能ベンチャーの経営者が、「AIと人間の違い」を教えてくれた。それは、AIは学習する理由は考えずにただ学習するが、人間は「なぜこのことを学べと私に言うのか?」と学習する理由を考えるというものだ。その力を本書では、「問いを立てる力」としたが、それはすなわち、人間だけが持つ「意思」だ。

例えば、息子に「こうしたほうがいいよ」と教えても、息子は「なんで?」と問い、言う通りにやらない。「反抗」と捉えることもできるが、それは人間だからこそ持てる意思の表れなのだ。人間の強みを伸ばす子育て、人育てはどうすればいいか、これが人工知能時代における私たちの仕事である。

今、人間の楽や便利は、別の人間の苦労や不便によって成り立っている。Amazonで注文した商品が翌日に届くのは、配達してくれる運送会社のおかげだ。しかし、ヤマト運輸が荷物の総量抑制を発表したように、人がそのすべてを負うのには限界がきている。

ヤマト運輸には、再配達日時を自動でやりとりする AIサービスがあり、LINEの友だち検索で「ヤマト運輸」と探せば、誰でも無料で使える。みんながこれを使えば、データが蓄積されて、チャットボットはもっと賢くなり、私たちももっと楽になる。

そのとき、再配達してくれた方に、人間である私にできるのは、「ありがとう」「お疲れさまです」と言うことだ。テクノロジーを使うからこそ、人にしかできないことが見えてくる。そんな時代に私たちは生きているのだ。人間が人間らしく生きるために AIは誕生したのだと私は信じている。

 

 

 

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