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【要約】「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト 著者 海老原嗣生

「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト



「AIで仕事がなくなる」論のウソ
この先15年の現実的な雇用シフト

著者
海老原嗣生

要約

現在「AIに仕事を奪われる」といった議論がいたるところで展開され、それに対する反応は仕事や将来を案じる人、自分が現役の間は逃げ切れると楽観視する人などに分かれる。しかし、実はAIによる雇用崩壊を報告しているレポートでは、実際の現場を調べずに書かれていることが多く、現実的予測として議論のベースにするには危険が残るという。
そこで、実務現場や職種のタスクをもとに、丁寧に雇用の未来を分析したのが本書だ。著者によれば、大前提として、生産年齢人口が急速に減少する日本では、AIによる仕事の代替は歓迎すべきことだ。そして予測可能性が高い今後15年程度の予測に絞ると、AIに雇用が代替される前に「すき間労働社会」が訪れる。これは、機械で代替できない細々としたすき間の仕事を人間が担う段階であり、雇用が本格的に減少するのはその後なのだ。

将来の雇用に対して漠然と不安を抱いている方はぜひご一読いただきたい。仕事が奪われるという恐怖から扇動的な話になりがちなAI代替論を、一つ一つ現実に即して確かめ、何を準備すべきかがわかるはずだ。著者は経済産業研究所コア研究員やリクルートキャリア社フェローを務め、雇用ジャーナリストとしても活躍する人事・雇用の専門家。

要約

日本の労働人口の49%がAIによって失業する!?

2013年にオックスフォード大学のプレイとオズボーンが「近い将来、9割の仕事は機械に置き換えられる」と研究報告してから、すでに5年経った。だが現在、雇用は減るどころか、世界中が人手不足に悩まされている。結果、逆にAIの進化を甘く見る人たちも増えてきた。だが正直に言えば、「今すぐなくなる」論と「心配ない」論、どちらにも問題がある。

2015年12月、野村総合研究所が衝撃的な研究結果を発表した。今後20年以内に、労働人口全体の49%がAIやロボットによって代替される可能性が高い、というのだ。ただし、これは、技術的な代替可能性を示すだけのものだ。機械化や自動化を考えるのなら、そのタスクごとに調べなければならないが、この研究ではそれがなされておらず、単純化し過ぎの感がある。

一方、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2017年1月に出したレポート「未来の労働を探求する:自動化、雇用そして生産性」では、800以上の職業における2,000以上の具体的な作業活動(タスク)を分析しており、少し精度の高い内容となっている。

同調査によれば、すべてが自動化の対象となる職業は全体の5%未満と非常に少ないが、およそ60%の職業では、少なくとも3割程度のタスクが技術的に自動化可能となる。仕事におけるタスクは様々だが、このうち、自動化されやすいのはデータ収集、データ処理、予測可能な環境での機械の操作の3つだ。

その構成割合は各産業の職業によってまちまちだから、自動化の可能性は産業ごとに濃淡が生じるという。しかしこの予測も、要素的に自動化が可能か見たものであって、それがコスト的に見合うかどうかの検討はなされていない。結局、企業が人手を機械に代えるか否かは、費用対効果が一番大きいのだが、そこに立ち入ると、推測は非常に困難になるのだ。

AIがもたらしうる3つのシナリオ

歴史を振り返ると、AIが社会に及ぼす影響として3つのシナリオがあることに気づく。大発明の登場時、どの時代でも「これで俺の仕事がなくなる」という騒ぎになる(ラッダイト運動)。ところが、しばらくすると、大発明は周辺の働き口を増やし、トータルでは雇用増となる。この繰り返しだったからAIもそうなる、というのが1つ目のシナリオだ。

一方、20世紀末から、社会全体で雇用の二極化が進んでいる。この波が続くなら、AIによる雇用創造も、一部の高賃金な仕事と、大多数の低賃金な仕事に二極化する。これが2つ目のシナリオだ。3つ目は、AIは手作業や接客業務のような低賃金労働まで、機械化・省力化を進めるので、もはや一極化となり、多数の人が職にあぶれるというものだ。

では現実はこの3つのどれになるのか、実務の側から検証してみよう。例えば、流通サービス業は、パートやアルバイトなどの非正規雇用で支えられてきた。その中核をなすのが「主婦パート」だったが、女性の高学歴化などにより昨今急激に新規流入者が細っている。そこで高齢者と外国人留学生へのリーチを広げているが、今後の労働力不足は深刻だ。

したがって、AIによる人手不足解消が喫緊の課題となるが、流通サービス業は事務処理のようなパソコン上で完結する仕事ではなく、作る・動かす・応対するという、こまごまと多彩な物理的作業が主となる。つまりAI単体では意味をなさないのだ。

こうした多彩な仕事を機械化するためには、1つの機械が人間のようにすべてを万能にでき、また新しい作業が発生してもそれを後づけで学べる、「汎用AI型」のロボットが必要となる。おそらくそれが市場に出回るようになるのは15年程度先だ。

ではそれまでの間、流通サービス業はどうやって人手不足をしのぐか。1つは、スーパーの「セルフレジ」などに代表されるサービスレベルの低減だ。もう1つの方法は、機能を絞って自動化し、間に入る「すき間作業」を人間がやるという形の省力化である。この段階で大規模店では2~3割の省力化に成功するだろうが、中規模店以下では、各工程を1人で賄っている店舗が多いため、機械化メリットがない。だから、多くの店舗では省力化が進まないだろう。

AI発展と雇用の構造変化のメガトレンドを読む
AIの進化が雇用に及ぼす影響には、職務により時期にこそ差はあれ、共通のパラダイムがある。例えば、事務職であれば、今でも多くの仕事がITで代替可能であり、仕事はかなり「すき間労働化」している。それが、これから15年の間に特化型AI(画像認識や翻訳など特定分野で機能するAI)の進化により消滅する。

流通サービス職や製造、建設などは、これから15年の特化型AI浸透期にすき間労働化が進み、2035年以降の全脳アーキテクチャ期(脳の部位ごとにそれぞれが持つ機能を再現するアプローチでつくられる汎用型AIが登場する時代)に消滅していく。

営業や庶務などのホスピタリティ職務や、企画・開発などのクリエイティブ職務は、当面維持されるが、2035年以降の全脳アーキテクチャ期にすき間労働化が進み、2100年以降の全脳エミュレーション期(脳の神経細胞ネットワークを丸ごとコピーするアプローチでつくられる汎用型AIが登場する時代)に消滅していく。つまり、職務により時代的差異はあるが、いずれも「現状→すき間化→消滅」という流れになる。

「すき間労働」化とは、仕事の醍醐味や習熟を積める業務が「なくなる」ことに他ならない。キャリア形成とは、修業の苦しみと成長のカタルシスから成り立つものだが、そうした部分が機械に代替されるために、働くことは苦しくも楽しくもないものになる。

そして、「誰でもできる」タスクだけが残れば、未経験者や門外漢でも明日から就労が可能となるから、雇用のすそ野は広がる。それでいて、中核部分は高度職人芸を機械が行うから、アウトプットはレベルの高いものになる。例えば、大学出たての営業担当がコンピュータのご託宣に従って提案を行えば、ベテラン営業職と同等な業績を上げられるなどだ。

しかし、世の中は人口減少のため、人手不足が続く。だとすると、人材不足下ですき間労働者を確保するために、会社は給与待遇をアップさせることになる。それは、「大したことをしなくとも、大金が手に入る」社会ともいえよう。

だが、こうして働き以上の報酬を得ることは、その先の時代をスムーズに迎える予行演習になるのではないか。2100年以降、ほとんどの仕事を機械が遂行し、それにより生まれた利益から、ベーシック・インカム(BI)が支給され、人は働かなくとも生活ができる社会が来る可能性がある。いきなりそんな社会に転換したら大混乱に陥るから、「すき間労働で働き以上に報酬を得る」過渡期があると考えると、雇用と技術の発展パラダイムが理解できるはずだ。

この15年間でどこまで雇用は変わるか

これから先15年間の日本の雇用を考えれば、AIはまだ特化型にとどまり、機械による労働代替は言われるほど多くは生じない。その規模は570万人程度であり、就労者数は9%程度の減少となる。一方その間に、生産年齢人口は822万人、労働者数は653万人も減少する。

こうした社会情勢の中にあっては、AIによる労働代替は不安要素というよりも、むしろ歓迎されるべきことである。ただし、それは人口減少社会という「日本」の特殊性ゆえに言えることだ。人口が維持もしくは増加している国で1割も雇用が減ったら、失業率はとんでもないことになる。そう考えると、日本は「少子化が進んでいて良かった」という皮肉な結論になる。

2035年以降の全脳アーキテクチャ型AI浸透期には、流通サービス、製造、建設などでも本格的な機械による労働代替が起きるだろう。人間同様の作業が実行できるロボットが、当初は1台数億円で市場に登場し、それが5~10年のスパンで1台5,000万円程度まで下がったときに、労働の機械代替は猛烈なスピードで進むことになる。

さすがにロボットが自動車並みに価格下落し、一家に1台となるまでには数十年かかるが、産業用で1台5,000万円という価格は、2040年代は到達可能性が高い。

当然、雇用は大幅に縮小するが、この時期、第二次ベビーブーム世代が退職期に入る。つまり、2040年ごろから本格的に二度目の労働力減少が始まっても、機械による労働代替と労働力減少の歩調が合うため、社会的混乱は比較的小さく済むだろう。

そうして、2050年までに就労者は3割程度減る。この時期には、外国人技能実習制度も不要となり、再び日本人に純化した社会になっている可能性は高い。しかも、就労人口が3割減る間も、機械による労働代替で生産性が伸び続ければ、国民1人当たりの所得は高まる。それは、すき間労働化=労働は少なく高賃金=BIの先取、という流れに則って、優等生ともいえるパラダイムチェンジを成し遂げる、ということではないか。

グローバルな視点も盛り込めば、これから15年、世界の多くの国では雇用不安が巻き起こる可能性が高い。その中で、日本の周辺、いわゆる東アジアは比較的、穏当な移行期となることが予想される。韓国・台湾・中国の3ヵ国は、いずれも急激な人口減を迎える時期にあるからだ。だから、機械による雇用代替は歓迎されることになる。

日本が今後も産業活力を保つためには、何より少子高齢化による労働力不足対策が必要であり、その意味ではAIは明らかに味方といえる。ただ、それが決定打になるかというと、いささかスピード不足だ。だから、女性や高齢者の活躍、技能実習生や留学生受け入れなどと歩調を合わせ、まさに総力戦で、少子化に挑まなければならないのだ。

 

 

 

 

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