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【要約】決定版AI 人工知能 著者 樋口晋也、城塚音也

決定版AI 人工知能

決定版AI 人工知能


 

著者
樋口晋也、城塚音也

 
 
要約
 

AI(人工知能)に対して抱くイメージは人によって異なる。ビジネス界では、機械学習ディープラーニングなどの知名度が上がり、AIに関心を持つ経営者も増えているが、導入にあたっては、そもそもAIがどういうものなのか理解していない場合も多い。また、「AIに仕事を奪われるのでは?」と漠然と不安を抱える人もいる。本書は、そんなAIに対する曖昧さや誤解を解きほぐし、本質的な理解を深めるための教科書的な一冊だ。
AIは大きく社会を変化させうる技術だが、いまだ限界があり、ビジネスに役立てるためには、担当者や経営者の工夫と知識が不可欠だ。そこで本書の前半では、曖昧に理解されていることが多いAIとIoT(モノのインターネット)、ビッグデータの関係や、AIが社会にもたらすインパクトなどの基本事項を丁寧に解説。後半では産業や業種ごとに異なるビジネス現場でのAI活用例や活用戦略、それによって私たちの仕事がどのように変わるのかを明らかにする。

著者らは株式会社NTTデータでAIソリューション開発を担当し、400以上のプロジェクトに携わってきた専門家。AIが従来のITシステムと違うのは、導入したらすぐに最適化できるものではなく、目的に沿って育成する必要があることだという。人材育成と同様に、試行錯誤しながら育てていけるかどうかが、成功の鍵になるのだ。これからAIの導入を検討している方、AIとは何かを初歩的から学びたい方はぜひご一読いただきたい。

要約

4つのAI活用—AIがもたらす付加価値とは

AIを「何でも回答してくれる魔法のコンピューター」と考えるとビジネスでの成功は難しい。現状のAIには人間ほどの柔軟性はなく、人間を超える能力を持たせるには莫大な投資が必要なのだ。しかし、人間ほどの能力を持たずとも、ビジネスに大きな変革をもたらすことができるのもAIだ。バーチャル空間からリアル空間(環境、インフラ、モノ、生体)へ適用先が拡大していく中で、AIをビジネスに活用していくには大きく分けて4つの方向性が存在する。

 

1.既存業務の効率化や高度化
今まで人が対応していた業務をAIで置き換えたり、アシストしたりする。現在のAIは言葉やその意味を正確にとらえることは苦手だが、膨大な情報を記憶したり、データに基づき判断をしたりすることは得意だ。人の得意分野とAIの得意分野をうまく融合させることが大切だ。

 

2.AIによる新規サービスの立ち上げ
AIでデータ分析を行い、その結果を利用して新サービスを創造する。データを収集可能な企業は、データ解析結果を強みにして新サービスを立ち上げたり、他業界に参入したりできる。例えば、冷蔵庫メーカーがセンサーとAIを活用してユーザーが購入した野菜や果物を正確に把握できれば、購買履歴をもとに栄養バランスについて助言するサービスを提供できる。

 

3.ビジネスのスケール加速
ビジネスが軌道にのると、スケール(拡大)するうえでの問題は希少資源や人の育成となる。逆にいえば、希少資源を必要とせず、人に依存しないサービスを構築すれば楽にスケールできるのだ。グーグルやフェイスブックはAIに仕事をやらせることで人の育成を回避している。

 

4.リアル世界のインテリジェント化
リアル世界にAIを適用する。東京大学の松尾豊特任准教授によれば、「信号機に画像を認識するAIを搭載し眼を持たせることができれば、交通状況に合わせて信号をダイナミックに切り替えることができる」。このようにAIで根本から改善できるサービスは多く存在する。

AIの基礎知識

人により多様な定義が存在するAIだが、本書では「機械により人間の知的活動を再現したもの」と定義する。「羅針盤」「火薬」「印刷技術」という世界三大発明を応用して、AI、IoT、ビッグデータを現代の三大発明と称する人もいるが、これらは「センシング」「分析」「制御」という3つの役割に分けて考えると分かりやすい。

IoTは「センシング」の部分に位置づけられ、センシングした情報をインターネット経由で分析を実行する場所に送る。センシングする情報はセンサーで感知したデータだけでなく、マイクで拾った音声データやカメラで撮影した画像データ、テキストデータなどがある。

AIは「分析」に位置づけられる。高い精度を達成しているAIは大量データを活用している場合が多いため、AIとビッグデータの違いが分かりにくくなっているが、ビッグデータは、正確には「大量にデータが存在する」という意味でしかない。

そして「制御」は、分析結果に基づいてユーザーに支援情報を出したり、機器を操作したりする部分だ。具体例としては、お客様の質問に対する回答の表示、工業用ロボットの制御、渋滞の解消を目的とした信号機制御などがある。

つまり、AIを賢くするにはIoTで大量のデータを収集する必要があり、また、分析結果をもとにロボットを動かす等の行動を起こさないとリアル世界に影響を与えることはできないのだ。センシング、AI、ロボットが融合することで高度な処理が実現されるのである。

なお、これほどまでに技術が発達した背景には、演算能力の向上に代表される「ハードウェアの進化」、学習に使用できる「データ量の爆発的増加」、ディープラーニングなどの「アルゴリズムの劇的な変化」という3つの要因が大きく影響している。

通常、AIの適用領域は、「知識探索・俯瞰(要求された情報、知識を大量の情報から探し出す)」「知識発見・意思決定(大量の情報を処理し意思や行動の決定を行う)」「コンテンツ生成(コンテンツを自ら作り出す)」「コミュニケーション(人間との対話を通じてサービスを行う)」「知覚・制御(環境・状況を把握して自律制御する)」の5つに分けられるが、実際のAIサービスは、複数領域にまたがることも多い。

AIにより変わる私たちの仕事

AIによって雇用が失われると心配している人は、比較的単純な仕事ほどAIに代替されると考える傾向にある。ところが、現実はそうでもない。例えば弁護士や医師といった知的専門業務は、意外にも、AI導入を進めやすい領域だ。

その理由は3つある。まず、弁護士や医療の分野では過去の判例、法律文書、医学論文などの知識が体系立てて整理されていてAIが分析しやすい。次に、通常、判例や学術論文は何十年も通用する。そして、人件費が高いほど、AIによるコスト削減効果が大きくなるため、AI導入の検討対象となりやすいということだ。

弁護士の仕事で特に大変なのは、膨大な判例を調べることだ。AIに「過去にこんな事件はなかったか」「こんな判例を探して欲しい」と指示を出すだけで、適切な判例をすぐに探してくれれば、弁護士の仕事は非常に楽になる。

弁護士費用は総じて高額であるため、一般の人々はそう気軽に相談できるものではない。そこでAIを導入して効率化が進みコスト削減が行われれば、弁護士事務所で働く人々にとっては痛手かもしれないが、社会的にはプラスになりうるのだ。

AIで置き換えにくい仕事には、技術面と経済面に障壁がある。技術面とは、AIがまだ能力的に追いついていない部分で、コミュニケーション能力や常識的な判断などがある。例えば、美容師はお客様とコミュニケーションを取りながら、手を動かすという高度な作業を行っているため、簡単には代替できない。

業務内容が次々と変わる業務にもAIは不向きだ。例えば、お弁当のおかずを詰める工場のラインは、自動化せずにあえて主婦パートに担当させている。主婦パートはお弁当の中身の変化に臨機応変に対応しておかずをきれいに詰められるが、AIではすぐには対応できないのだ。

一方、高性能マシンの利用にはそれなりにお金と時間がかかるため、経済面でコストの安いアルバイトで間に合う業務はなかなかAIには置き換わらないだろう。ただし、技術が安価になれば、一気に導入が進む可能性もある。

ビジネスを加速させるAI戦略

AI導入を考えている企業が最初に考えるべきなのは、なぜAIを導入するのかを明確にすることだ。当たり前の話に聞こえるが、実際に目的が不明確なままAIの導入検討を進めてしまうケースは多い。よくあるのは、経営層が他社事例を聞きつけて、部下にAI導入を命じるパターンだが、「AIで実現可能である」のと「AIの導入が適切である」には大きな差がある。

最もインパクトを出せるAIの使い方は、人間の関与を減らし、ビジネスを急速に拡大する戦略だ。だが、新サービス立ち上げは、それなりに敷居が高いため、最初は業務効率化にAIを活用し、経験を積みながら、新サービス創造にシフトしていくのが現実的なやり方だろう。

技術革新が速すぎて技術を買ってもすぐに陳腐化する現在の状況では、技術を持った人材の獲得が最大の早道となる。企業に必要なAI人材とは、

①ビジネスが分かる

②データ分析ができる

③データ分析プログラムをシステムに落とし込める

の3要素を備えた人材だが、全部こなせる人材は少ないため、個別の専門家でチームを組むことが現実的だ。必ずしも専門知識が必要とは限らず、AIツールを使いこなせる人材で十分な可能性もある。

また、AIを使った新サービスの提供時に重要なキーワードとなるのが「エコシステム(生態系)」だ。AIを使ったサービスでは、皆が使えば使うほどデータが蓄積され、精度が上がっていく仕組みを構築することがポイントである。

例えば、アップルのSiri、グーグル・ナウ、マイクロソフトのコルタナ、アマゾン・エコーなど、各社がパーソナル・アシスタントを導入している。これらは、ユーザーの利便性向上を目的としているように思われるが、その最大の狙いはエコシステムの構築だ。

パーソナル・アシスタントは、自宅などのプライベート空間で力を発揮し、様々なユーザーの情報を収集できる。こうした情報に魅力を感じて様々なサードパーティーが集ってくれば、パーソナル・アシスタントで利用できるサービスが広がる。

これこそがエコシステムの威力に他ならず、エコシステムは企業が飛躍的な成長を遂げる手段となる。なぜなら、単独ではできないことでも、他社の力を借りてできることが増えていくからだ。新サービスによって爆発的な成長を狙うなら、エコシステムの形成を念頭に置いたビジネスモデルの開発が必須になってくる。

ブームは終わるがチャンスはこれから

AIブームは過去にもあったため、今回もまたブームで終わるのではないかと思う人は多い。だがブームに終わりは来ても、進化したAIは残る。AIの性能が向上したことで適用領域はかなり広がっており、AIの技術開発に対する膨大なリソースの投入はこれからも続くだろう。その中から新たな領域で利用され定着する、優れた AIが登場してくることは間違いない。

したがって、ブームが終わって幻滅期に入って手を引くのではなく、AIの真の姿を知ったうえで賢く使っていくことが、企業の今後の競争力に大きく影響してくる。3年かけて育てたAIを他社が模倣するには3年かかる。継続こそが力になり、ブームが下火になったときにこそ、本当のチャンスがあるのだ。

 

 



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