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AIが作り出した著作権は誰のものなのか?AIにも法人格を

AIが作り出した著作権は誰のものなのか?

「AIがレンブラントの『新作』を描いた」というニュースが話題になりました。

 photoTHE NEXT REMBRANDTより

 17世紀のオランダ画家・レンブラントの画風を機械学習や顔認識で分析し、3Dプリンタを使って“新作”を描く――そんなプロジェクト「The Next Rembrandt」を、米Microsoft、オランダのデルフト工科大学などの共同チームが実現した。約1年半をかけ、レンブラントの作風をまねた新しい作品が完成した。

 レンブラントが描いた全346作品を3Dスキャンし、高解像度化した画像データを用意。ピクセル単位で画像を分析し、ディープラーニングアルゴリズムを用いて、絵画の主題や構図、服装の特徴、性別・年齢などを学習した。顔認識アルゴリズムを活用し、目や鼻といった顔立ちのバランスも考察している。(ITmedia NEWSより)

 AIが描いたこの“新作”については、誰がどのような権利を持つことになるのでしょうか。

「AIの創作物について誰が権利を持つのか」は、日本でも議論が熱い

 AIが創作した物は誰が権利を持つのか、という点はビジネス的にも法律的にも非常に興味深い論点でして、この点について言及した「知的財産推進計画2016」が、内閣の知的財産戦略本部で昨年5月に決定されました。

 また、その後も引き続き「知的財産推進計画2017」策定に向けた検討が政府内で進んでおり、「新たな情報財検討委員会」では刺激的な議論がなされています。この委員会での議論の結果については近々報告書が出されると思いますが、今回の記事ではとりあえず現在公表されている「知的財産推進計画2016」と、昨年分の委員会の報告書などを前提としています。

 この「知的財産推進計画2016」は、合計134ページ程度の報告書ですが、その中に「人工知能によって生み出される創作物と知財制度」というわずか約1ページの記載があります。これは知的財産戦略本部に設置された「次世代知財システム検討委員会」での議論を集約した報告書を基にしています。

 この報告書は当然、次世代知財システム検討委員会の議論を基に作成されているのですが、この委員会、議事録がめちゃくちゃ面白い。

 この委員会のメンバーは学者さん、IT企業の方、弁護士などの実務家、漫画家の方など各方面の一線級の方々ばかりで、それらの方々が好き勝手──じゃなかった、それぞれの個性と考え方を惜しみなく発揮されています。

 参加者全員がワクワクして、あるいは危機感を持って、いずれにしても“自分事”として熱心に議論し、その結果、委員会が大盛り上がりだったことが議事録からもよくうかがえます。

 なにせ、もともと開催7回で年度内に終える予定だったのが、1回延期されて年度を越しちゃってますからね。コンテンツ関係業界の方、IT業界の方、弁護士でこの分野に興味がある方は、是非この議事録は、人工知能のところだけでも読むことをお勧めします。

 さて、前置きが長くなりました。今回の記事ではAIが生成したコンテンツ(AI創作物)が爆発的に増えていったときに、誰がどのような権利を持つかについて、上記の知的財産推進計画2016、次世代知財システム検討委員会報告書、同委員会の議事録・参考資料を紹介したいと思います。

  • AI創作物に関わる全てのプレーヤーに権利が発生するわけではない
  • 全てのAI創作物に権利が発生するのではなく、「登録されたAI創作物」や「流通の結果、周知性や著名性を獲得したAI創作物」に限定して権利が発生する可能性が高い

一口でAI創作物と言っても、問題領域は1つではない

 まず「AI創作物と知的財産権」と言っても、複数の問題領域を含んでいます。コンテンツ分野(音楽、小説など)に限っても、以下のような問題があります。

1)AIが創作した音楽、小説のようなコンテンツについては、誰がどのような権利を持つのか

 

(2)AIが創作した創作物が、たまたま人間の創作物に類似してしまった場合、人間の創作者はAI創作物の提供者に著作権侵害を主張することができるのか。

 

(3)AIに既存の小説やマンガなどを全部入力して、そのビッグデータを解析して将来流行するものを予測して作品を生成させた場合において、元の著作物の創作的表現が残ってしまった場合には著作権侵害になるのではないか。

 

(4)AI創作物と人間の創作物は今後市場で競合する関係になるが、仮にAI創作物の方が人間の創作物より保護が薄いということになると、AI創作物の利用の方が進む可能性がある。

それにより相対的に人間の創作物が埋没していくのではないか。

 いずれも非常に難しい問題です。

(2)は、自動運転の自動車が交通事故を起こした場合に誰が責任を負うか、という議論とパラレルですね。

特に(4)については、よく考えなければならない問題です。AIがすごいすごいと言っていると、いつの間にか人間のクリエイター全員が飢え死にしていた、という状況は冗談ではなく生じうるわけです

 今日の記事では、特に関心がある人が多い(1)「AIが創作した音楽、小説のようなコンテンツについては、誰がどのような権利を持つのか」について掘り下げて検討をします。

何も法律をいじらなかったらAI創作物に権利は発生しない

 ここで、仮に現行の法律を全くいじらなかった場合、AI創作物に関する権利はどうなるか考えてみましょう。  

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 冒頭で紹介した「人工知能が描いたレンブラントの『新作』」は、おそらくこのパターン3に該当します。現行法をまったくいじらなかった場合、この新作は法的な保護がされない、つまり、このパターンのAI創作物は誰でも利用できる(いわゆるパブリックドメイン)ということです。問題はそれでいいのか。

AI創作物について、誰にどのような権利を与えるのか?

 そうなると、AI創作物を創作して世の中に提供しようという事業者が出てくるかどうか、疑問になりますね。提供してもパクられることが分かっているのであればビジネスは止めておこう、というのが自然な発想だからです。このように考えるとAI創作物に関しても、誰かに何かの権利を与えないとまずいようにも思います。

 ただ、ここは抽象的に「AI創作物を法的に保護する必要があるかどうか」を議論していても前に進みません。「AI創作物を法的に保護する」ということは、「誰かにAI創作物に関する何らかの独占権を与える」ということです。

 そして、なぜ独占権を与えるかというと、「独占権を与えることで、投資を促進するインセンティブを与えるため」だといわれています。

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    この「インセンティブ論」を手掛かりにすると、抽象的に「AI創作物を法的に保護する必要があるかどうか」ということではなく、AI創作物を利用したビジネスモデルとしてどのようなものがあって、そのビジネスモデルにおいて誰に、どのような権利を与えることが、もっともプレーヤーのインセンティブを増し、それによって豊かなコンテンツが世の中に流通することになるのか、という視点でこの問題を考えなければならないことになります。

 

著者プロフィール

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弁護士・柿沼太一 

1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。

人工知能が作った創作物、現行の法律ではどうなる? (1/2) - ITmedia NEWS

AI産著作物がパプリックドメインになると発生する問題

AI創作物がパブリックドメインになると、誰でも無料で使いたい放題になります。

AI創作物を使ったビジネス(例えば、AIが創作した音楽をストリーミングで聴けるとか、AIが創作した小説を電子書籍で読めるなど)は成り立たないことになります。

 パブリックドメインに属するAI創作物は、お金を支払わずに合法的に誰でも楽しめるのに、なんでお金を支払う必要があるのか、ということになるからです。おそらくAI創作物を無料で楽しめるサイトが乱立することになるでしょう。しかもそのサイトは完全に合法です。

こうなると、需要と供給のバランスは崩れ、大きく著作物の価値が下がると考えられます。こうなってしまうとクリエイターは食っていくことができなくなります。

AI道具理論

道具理論は本来刑法の概念ですので、民法とは違った考え方になりますが、参考としてわかりやすいので道具理論を使って説明します。

道具理論とは?

他人を利用する場合に、正犯としての実行行為性を認める立場は、正犯の意味を規範的に(緩やかに)とらえる。

正犯とは、犯罪実現の現実的危険性を有する行為を自ら(自らの手で)行う者をいうが、「自ら」(自らの手で)は規範的理解が可能(緩やかに解することが可能)とする。そのうえで、他人を道具として利用する場合は、規範的には「自らの手で」行ったといえ、利用者の行為には正犯としての実行行為性が認められるとされる。

この立場では利用者に正犯意思が認められるとともに、被利用者に道具性があるときに間接正犯が成立するとされ、道具性の要件が問題となる。(道具理論)

これについては、「反対動機形成の可能性がないこと、または強い支配を受けていること」が道具性の要件であり、このとき間接正犯に実行行為性が認められるとしている。

  1. 被利用者の身体活動が刑法上の行為に当たらないとき
  2. 被利用者の行為が構成要件要素を欠き、構成要件該当性を有しないとき
  3. 被利用者の行為が違法性を欠くとき

が挙げられている。

医師が入院患者を殺そうとして毒入り注射器を用意し、看護師に事情を知らせず、患者に注射するように指示した場合は、看護師には構成要件的故意が欠け、2.の場合にあたる。

判例は、責任を欠くときも挙げるがこれに対しては批判が多い。

間接正犯 - Wikipedia

簡単に言えば、刑法上の道具理論では道具として扱われた者には責任は道具として使った者が正犯となり、責任を追及されます。

責任が追及されるということは、道具としてAIを使用した場合の責任は使用者に行きますし、当然責任だけでなく権利も使用者側にあると思われます。

ちなみに、

漫画のアシスタントさんでいうと、委託を受けた個人事業主になるので、権利自体は契約によりますが、業務を全うし権利を引き渡すまでが仕事になると思いますので、おそらく権利は原作者に行くものと思われます。

そう考えると、アシスタントさんも労働力も道具に適用するものとも考えられる(?)

法人での運用の場合は業務著作物になると思うので、その場合は会社に権利が行きます。

 

自分でもよくわからなくなってきました。

もっと簡単にすると、ペンを使った漫画を描いたとしたらそれは当然作者に権利が行きますよね。

この時のペンは道具です。

これをAIに当てはめて考えるとこうです。

AIを道具であると考えれば、それを使用したものに著作権が認められるはずです。

しかし、AIは自らの手を動かすことなく自動で生成してしまうので、「思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項)」に該当せず、そもそも著作権も発生しません

 

つまり、AIを道具として見立てたとしても、著作権成立の構成要件を満たさず、権利は発生しないということになってしまいます。

権利の帰属云々の話の以前に著作権自体が発生しないことになります。困った。

解決策はあるのでしょうか?

AIに法人格を与える

AIに法人格を与えるという手段はどうでしょうか。

その前に法人格とは何かを説明します。

法人とは?

自然人以外で、法律によって「人」とされているものをいう。ここでいう「人」とは、権利義務の主体となることができる資格(権利能力)を認められたものをいう。

法人 - Wikipedia

自然人とは我々人間のことです。

人であれば権利能力を有します(未成年や被補助人、成年被後見人は制限あり)

余談ですが、胎児は権利能力を有していないので法律上は人とはみなされません。

民法上は生まれてくれば遡及的に権利能力を持っていたとみなされます。

話が逸れましたが、法人は権利能力を有しているので人としてみなされます。

法人の代表的な例が会社です。

会社は法律上は独立した人として考えられ、個別具体的な権利能力を有します。

これにより会社名義での取引を行えるようにもなりますし、会社として契約を結んだり、履行する義務が生まれたりします。

これをAIに適用し、AIが自身が権利者となるようにするということです。

 

ただし、AIに責任能力があるのか否か、これまた議論があります。

具体的な例では自動運転の責任問題です。

製造物責任法不法行為法等で罪に問えるかもしれませんが、AIに法人格を与えたとしても、そのAIが責任を負えない場合は困るわけです。

損害を与えられた方は泣き寝入りせざる得なくなってしまう。

現在では、メーカーが責任を負うか使用者が責任を負うのか議論がなされていますが、AIに法人格を与えてしまうと、こういった問題にも適用されかねず、ほかにも問題が出てきてしまうのです。

法人格を持ったAIが問題を起こした際にはおそらく、連帯責任ということで使用者、メーカーどちらかが責任を負うことにはなると思いますが。

まとめ

現在AIによる著作物による商売は行われていませんが、今後こういったビジネスが行われる可能性は高いです。

しかしながら、法的にどのように対処するのかは議論の真っ最中でありどうなるのかは、わかりません。

今後も情報を随時掲載してく予定です。

 

 

 

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