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【要約】USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 著者 森岡 毅

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方
成功を引き寄せるマーケティング入門

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門 (角川書店単行本)

著者
森岡

要約

 

今や関西の観光に欠かせないユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下 USJ)は、2001年に年間 1,100万人の入場者を集め、華々しくオープンした。しかし翌年には 700万人台へと急降下し、2004年には事実上の経営破綻状態となった。その後も年間集客に伸び悩む USJに飛び込んだのが、著者で現CMOマーケティング最高責任者)の森岡毅氏だ。
著者はUSJのコンセプト刷新、ファミリーエリアの投入、単価アップなど、矢継ぎ早に綿密に計算されたマーケティング施策を投入して、奇跡ともいわれるV字回復を実現。2014年に 1,270万人、2015年に 1,390万人と過去最高記録を更新し、2015年10月には月間集客数で東京ディズニーランドをも超え、単月集客では日本一となった。

さらには、直近5年間のイベントやアトラクションなどの新規プロジェクトの成功確率は、97%にも達しているという。本書は、その秘訣を森岡氏自身が解き明かした一冊だ。本書によれば、それは「どう戦うか」の前に「どこで戦うか」を見極め、「目的」「目標」「戦略」「戦術」を徹底的に考え抜いて実行する「マーケティング思考」にあった。

著者は 世界最高峰のマーケティング力を誇る P&Gで、日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、社内教育機関「P&Gマーケティング大学」校長など要職を歴任した生粋のマーケター。本書では、マーケティング思考のみならず、プロフェッショナルとしてのキャリア論まで言及され、若手からベテランまで参考にできる一冊だ。

要約

USJの成功の秘密はマーケティングにあり

USJは、「マーケティング」を重視する企業になって、劇的に変わった。2014年のハリー・ポッターのオープン後、USJは快進撃を続けているが、現在の盛況はハリー・ポッターの大成功で作られたものではない。その3年前から、お金のない中で無数の新企画を当て続け、毎年値上げをしながら 100万人ずつ集客を増やし、奇跡のV字回復を果たしたのだ。

森岡さんは USJの何を変えたのですか?」とよく聞かれる。視点によっては変えた項目は数百以上列挙できるが、究極的には変えたのは1つだけだ。それは「消費者視点(Consumer Driven)」という価値観と仕組みに USJを変えたことだ。

Consumer Driven Company(消費者視点の会社)であることは、消費者の喜ぶことなら何でもするということではない。会社側のどんな善意も、消費者価値につながらない(消費者に伝わらない)のであれば意味がない。そう腹をくくった意思決定をできる会社が Consumer Driven Companyだ。

「ゲストが本当に喜ぶもの」と「ゲストが喜ぶだろうと作る側が思っているもの」は必ずしも一致しない。毎日毎日見ていると、どんどん目が慣れてしまって、作る側の「感動の水準」が一般消費者のそれとはどんどん離れていくからだ。

それまでテーマパーク業界は、圧倒的にクリエイティブ中心の運営がなされていた。しかし、USJの今の必勝パターンは、まずマーケティングが消費者が望んでいるものを分析し、何を作るべきかを決める。次にそれをどのように作るのかという段階で、クリエイターやプロデューサーらの作り手が必死にアイデアと技術を駆使して作っていくというものだ。

製作段階では、マーケティングは、当初の消費者価値からズレていないかを確認する。マーケティングがその役割を担う理由は、マーケターが消費者理解の専門家だからだ。USJは作ったものを売る会社から、売れるものを作る会社に変わったのである。

マーケティングを学ぶ

マーケティングフレームワーク」の全体像
「マーケターになるために最も大切なスキルは?」と聞かれれば、私は脊髄反射で「戦略的思考能力を身につけること」と答える。「戦略」とは、「目的」を達成するために資源(リソース)を配分する「選択」のことである。

「目的(Objective)」とは達成すべき使命のことであり、戦略思考では最上位の概念になる。また「目標(Target)」は、その目的を達成するために経営資源を投入する具体的な的のことであり、「戦術(Tactics)」は戦略を実行するための具体的なプランを指す。

そして、マーケティングの課題に取り組むにあたって、「整合性のある戦略と戦術」を生み出しやすくなる便利な道具が「マーケティングフレームワーク」だ。具体的には、目的、目標、戦略、戦術の4つにそれぞれマーケティング用語をあてはめて次のように考える。

 

目的:OBJECTIVE(達成すべき目的は何か?)

目標:WHO(誰に売るのか?)

戦略:WHAT(何を売るのか?)

戦術:HOW(どうやって売るのか?)

 

ここでは、必ず目的に近いところから順番に考えることが重要だ。適切な目的を設定し、WHO(誰に?)を決定し、その WHOに対して WHAT(ブランド価値のどの部分を訴求するのか?)を決定し、最後に HOW(どうやって WHOに WHATを届けるのか?)を決定する。これがマーケティングフレームワークの全体像だ。

「戦況分析」の重要性

マーケティングフレームワークを使う前に必ずやっておくべきこと、それは自ブランドをめぐる「戦況分析」だ。戦況分析は、「市場構造」を理解して、それを味方につけるために行う。「構造」とは、わかりやすく言えば、「全体としての人々のやり方」である。ビジネスに限らず、人間の営みは全て「構造的な仕組み」に収束していくのだ。

例えば、私がかつて売っていたヘアケア市場では、製造メーカーの事情、流通(卸や小売など)の事情、最終購入者である無数の消費者の事情、それら全ての力学がぶつかり合って、ある一定のやり方に収まってきた。それが現在のヘアケア市場の「市場構造」だ。

何が何によって決まっているのか、どこを押せば何がどう動くのかといった市場構造をよく理解しなければ、自ブランドを勝たせることはできない。市場構造に逆らうことも不可能ではないが、膨大な経営資源が必要になるのだ。

もっとも一般的な戦況分析の視点が「5C分析」だ。

5つのCとは

Company(自社)

Consumer(消費者)

Customer(流通など中間顧客)

Competitor(競合する他社)

Community(ビジネスをとりまく地域社会)

である。

Consumer(消費者の理解)は、マーケターの真髄ともいうべき課題だ。消費者理解では、消費者の量的な理解(数値データを用いて広く全体像を理解する)と、消費者の質的な理解(質的調査などを通して消費者の深層心理に迫る)の両方が重要となる。

適切な質的調査を重ねていくと、消費者がその商品を買う根源的な理由が見えてくる。それがが「消費者インサイト」だ。消費者自身が気づいていない(あるいは直視したくない)真実のことで、ここをマーケターが意図的に衝くと、消費者を大きく動かすことができるのだ。

強い消費者インサイトは、理性を「はっと」させるか、感情を深く「エグる」ものだ。例えば、2010年のクリスマス・イベントで衝くことにしたインサイトは、親の切ない深層心理をエグるものだった。

それをわかりやすく表現すると「あなたのまだあどけなくてかわいい娘はすぐに大きくなって、クリスマスなんてあなたと一緒に過ごしたがらなくなります。すぐにクリスマスイブは帰って来なくなって、彼氏と過ごすようになりますよ」というもの。

これを露骨に表現するとさすがに世の中から非難があるから、我々はそのインサイトを「いつか君が大きくなってクリスマスの魔法が解けてしまうまでに、あと何回こんなクリスマスが過ごせるかな…」とおいうコピーに変換して、切ないパパ目線で語った。

それだけで、クリスマスシーズンの集客効果は前年に対して倍増した。パークにおけるイベントの内容、つまりプロダクト(製品)は前年までと全く変わっていないが、WHOをちゃんと理解して強いインサイトを活用するだけで、売上を倍増させることもできるのだ。

WHO・WHAT・HOWが全てうまくいくとビジネスは爆発する
ハロウィーンはここ数年で全国に火がついて、バレンタインをも超える新しいイベントとして急成長を遂げている。しかし私が USJに入社した 2010年頃のハロウィーンは、ほんの一部の人間しか関わっていない地味なものだった。

新しい試みを仕掛けたのは翌 2011年のハロウィーンからだった。数学を用いた徹底的な戦況分析の結果、年間で既に最大の集客月であった10月とその前後の9月・11月が、実は最も伸びしろが大きいシーズンであるとわかったからだ。

ここからは目的の設定だ。高すぎず、低すぎず、14万人という追加集客達成を目的に掲げた。次に、プラス 14万人を達成するための WHOは、この秋に動きやすい顧客層を分析して、独身女性層をコアターゲットとした。

さらに若い人がハロウィーンに何を期待しているかという質的調査を重ねると、非常に強いインサイトを発見した。それは、日本の女性は、ストレスがたまりやすい環境に置かれているのに、安心してストレス発散できる手段に恵まれていないという事情だ。

ターゲットの若い女性に対して提供する根源的な価値を思案した結果、「思い切り叫んでストレス発散できる!」という WHATで勝負しようと決めた。社会的、文化的に周囲に気を遣っている彼女達が、素の自分で思い切り叫んだり、大声で泣き笑いできる場所である。

消費者理解に時間と精神力を費やしていたから、それを提供できたら価値が高いことは確信していた。そして HOWの仕掛けとして、まずは「4P(Product、Place、Price、Promotion)」の筆頭であるプロダクト(イベント内容)から考え始めた。

本場のハロウィーンは、仮装も含めて、ダークな内面を無礼講で表に出しても良い日だから、「ハロウィーン・ホラー・ナイト」というプロダクトのコンセプトを考えた。とはいえ予算はほとんどなく、社内の使えるリソースを血眼になって探した。

すると、一部のマニア向けにやっていたゾンビのイベント映像を見つけ、そのメイクと演技のクオリティーに衝撃を受けた。そして「このゾンビを何百人と雇って、パーク中に解き放とう!夜になればパーク全体がゾンビが練り歩くホラー映画の舞台のようになる」と閃いた。

あとは Priceや Promotionをきちんとセットするのみ。今後数年かけてハロウィーン・ホラー・ナイトを育てるためには、初年度は1人でも多くの消費者のトライアルを獲得すべきであり、追加料金はなしとした。Promotionは、怖いだけではなく「怖いけど面白い、楽しい」という間口の広い WHATに集中して TVCMを開発した。

そして運命のハロウィーン・ホラー・ナイト実施の本番、USJは大変なことになっていた。目的のプラス 14万人の追加集客効果を軽く抜き、実にプラス 40万人以上をわずか約2ヶ月で達成してしまったのだ。しかも設備投資費はかかっていない。

今やハロウィーンは全国的にブレイクし、ますます9~11月シーズンの需要は高まっている。このように、正しい WHOと WHATと HOWが噛み合ったとき、日本の文化を変えてしまうくらいのインパクトを与えることも可能だ。そのためには徹底的に戦況分析消費者理解に時間を投資すること。それができれば高確率でビジネスを成功させることができるのだ。

 

 

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