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【要約】KGBスパイ式記憶術 KGBスパイ式記憶術 著者 岡本 麻左子

KGBスパイ式記憶術
 

KGBスパイ式記憶術

著者
岡本 麻左子

 
 
要約
 

新しい知識やノウハウを身に付ける場合など、記憶力は学生時代のみならず、ビジネスでも役立つ。こうした記憶力を命懸けで磨かなければならないのが諜報員、すなわちスパイの世界である。本書では、そんなスパイ式の記憶術、しかもロシアで諜報部員養成にも使われているという本物のテクニックを解説した一冊だ。

記憶術には様々な手法が存在するが、著者はそれらに共通する原則として、①関連付ける、②視覚的にイメージする、③感情を伴わせる、の3つを挙げる。本書では架空のストーリーを読み進め、随所に用意された演習やトレーニングに取り組み、上記の記憶術や情報を分析して仮説を立てるといった、スパイの思考法や仕事術について学んでいく。

年齢とともに記憶力に衰えを感じることがある方はもちろん、効率的に学習や仕事を薦めたい方はぜひご一読いただきたい。一読すれば、記憶力が思考力や対人折衝能力など様々なスキルの元となることがわかるはずだ。著者の一人、デニス・ブーキン氏は、サンクトペテルブルクエ科大学経済学部出身の経済学者、経営者、心理学者。

要約

記憶術の3原則

「スパイ」と聞くと、ペン型レーザー銃やライター爆弾のような小道具を思い浮かべる人がほとんどだろう。しかし、スパイの装備で最も重要なものは、スパイ本人の頭脳だ。なかでも記憶力はスパイの任務に欠かせない。

どんな記録を残すことも許されない極秘任務の場合、諜報部員が頼れるのは自分の頭脳のみ。膨大な情報を完全に記憶して正確に再現できなくてはならない。記憶術にはさまざまな種類があるが、どの記憶術にも3つの原則があてはまる。

原則1 関連付ける

脳という装置は、さまざまなイメージや概念を互いに結び付けるのが得意だ。クリスマスと聞くと、すぐにクリスマスツリーや賛美歌やプレゼントが思い浮かぶといった具合である。

また、記憶力の良さというのは、覚えているかどうかよりも情報を呼び出せるかどうかだ。何かを覚える場合、既に知っていることに関連付ければ簡単に覚えることができ、連想の鎖を使えば必要に応じてすぐに思い出すことができる。よって、記憶術の第1原則は、何かを覚える場合は簡単に思い出せるように、よく知っているものに関連付けるということである。

原則2 情報を視覚的にイメージする

視覚的イメージは言葉や数字よりも簡単に記憶できる。したがって、記憶術の第2原則は、記憶すべき情報を視覚的にイメージすることである。

記憶術の第1原則と第2原則は、併せて使用するものだ。例えば、味方と接触せずに情報を受け渡す方法として、手荷物ロッカーを使用し、ロッカーの暗証番号は「855411」だとする。この番号はおそらく今後数年間、正確に覚えていなくてはならない。

この暗証番号の数字をそれぞれ絵としてイメージし(第2原則=情報を視覚的にイメージする)、それを互いに関連付けてみよう(第1原則=関連付ける)。数字の「8」は太った女のように見える。「5」はサドルの付いた一輪車だ。「4」は椅子で「1」は箒としよう。

1人の女(8)が2台の一輪車(55)に乗っている。体重が重すぎて1台では支えきれないからだ。2台がばらばらにならないように椅子「4」をくくり付け、その椅子に座っている。一輪車が倒れないよう、2本の箒(11)を使って綱渡りのようにバランスをとっている。女が向かう先は、もちろん手荷物ロッカーのある駅だ。この絵を鮮明に思い描ければ、この暗証番号が記憶から消えることはない。

もっとよいのはこれを視覚に限定して考えないことだ。聴覚、触覚、嗅覚、味覚も役に立つ。木を想像するにしても、細かいところまでイメージしよう。その木は柔らかな若葉を茂らせ、さわやかな樹液の香りがする。ざらざらした樹皮は温かく、そこにはねっとりとした苦い樹脂がつやつやと光沢を帯びて滴っている、といった具合だ。

原則3 感情を伴わせる

脳は最も強烈な感情を伴うことを最優先する。つまり、記憶力は感情によって活性化されるのだ。普通の人は、数年前の出来事を思い出してほしいと言われたら、人生の節目となる出来事を思い出すだろう。子どもの誕生、伴侶との出会いや別れ、転居、転職…こういったことはすべて、そのときに強烈な感情を抱いたからこそ記憶に残っているのである。

前述の手荷物ロッカーの暗証番号はなぜ記憶できたのだろうか?それは、驚いたり戸惑ったりしたからでもある。女が椅子をくくり付けた一輪車に乗っているイメージが、奇抜でばかげているからだ。それで感情が芽生え、しっかり記憶してすぐに思い出せるようになるのだ。

1時間後に忘れてしまう

ドイツの心理学者へルマン・エビングハウスは被験者に3文字からなる無意味な音節を覚えるように言い、想像力を使わず丸暗記で覚えさせた。すると、1時間後に思い出せるのは覚えた情報のわずか 44%で、1週間後には 25%以下にまで下がることがわかった。情報の大部分は、覚えて1時間以内に忘れてしまうのだ。

では、どうすれば覚えていられるのだろうか?その後の実験で、反復によって忘却率を下げられることがわかっている。実際的な方法としては段階に分け、時間をおいて復習する。覚える時間が1日しかない場合、最も効果的な復習のタイミングは次のとおりである。

1回目 覚えてから15~20分後
2回目 6~8時間後
3回目 24時間後

復習する際には、繰り返し聞いたり読んだりするよりも、覚えたことを図や文字にして書き出したり、必要なら元の情報を確認したりして能動的に行うほうがよい。覚える時間をもっと長くとれる場合は、次のように復習すると効果的だ。

1回目 最初に覚えた同日中
2回目 4日後
3回目 7日後

覚える量が多い場合は、詳しさの度合いを変えて復習するとよい。1回目は全体的に復習し、2回目は重要ポイントのみ、3回目は全部を復習するにしても順序を変えるといった具合だ。復習は最低でも3回は必要だ。諜報部員が自分の身元を偽装するカバーストーリーを覚える場合は、100回復習した後でも定期的に確認する。なにしろ命にかかわる問題なのだから。

数字はこう覚える

数字を覚えるのは難しいと感じる人がほとんどだが、それはおそらく数字は抽象的で、単語や名前ほど具体的な実体がないからだ。だから、数字を覚えやすくするには視覚的イメージに変換すればよい。その方法には、さまざまなものがあるが、その1つは、次のように数字の形に似た物をイメージするやり方だ。

0→ボール、帽子、指輪
1→ロウソク、槍、羽根
2→白鳥、カタツムリ、電気スタンド
3→口ひげ、雲、ラクダ(横向きに見た場合)
4→椅子、帆船、風向計
5→クレーンのフック、ひしゃく、ヤシの木

数字の視覚的イメージは、もっと自分に合った規則を作っても構わないが、それぞれの数字のイメージは似ていないほうが好ましい。また、ひと続きの数字を覚えるには、数字を1つずつイメージ化して、それを使ったストーリーを想像するだけでよい。例えばクレジットカードの暗証番号「4837」を覚える場合なら、次のようなストーリーを作ることができる。

帆船(4)が航行している。海が凪いでいるので、乗組員たちは帆船に自転車の車輪(8)を取り付け、一生懸命にペダルを漕いで船を速く進めようとしている。しかし、雲(3)にドアノブ(7)が付いていたので、ペダルを漕がなくてもそのノブをつかむだけでよくなった。

イメージに置き換えて数字を覚えるテクニックは、記憶術全般に共通した原則がベースになっている。抽象的な数字を視覚的なイメージに変換し、そのイメージどうしをストーリーのなかで関連付ける。そしてストーリーが奇抜なほど覚えやすくなるというわけだ。

顔と名前を記憶する

諜報・防諜活動の主戦力として活躍している工作員は人に関しても記憶できるようになる必要がある。名前と顔だけでなく、容姿、好きなもの、趣味、習慣、弱点、過去など、これから関係を築くうえで役に立ちそうな相手のことはすべて記憶しなくてはならない。

人間は社会的な生き物であり、人の顔を認識できる能力はもともと備わっている。しかし、名前、飲み物の好み、趣味といったようなことを覚えるには努力が必要だ。このような情報を覚える方法としても最もよいのは、容姿と結び付けることだ。

相手を観察し、他の人とは違う特徴に注意しよう。額が広い(狭い)、鼻や耳の形が変わっている、目と目の間隔が広い(狭い)、顎が割れている、ほくるや傷があるなど、何でも構わない。その特徴に名前を結び付けたストーリーを作るのだ。

例えば、マーク・ウォーカーという人物は額が広く、チェスとテレビ番組の「ハウス」が好きで、他の人がテレビでフットボールを観ていると不機嫌になるとしよう。想像してみてほしい——この男の広い額がチェス盤の模様に塗られている。チェス盤の真ん中には小さい家があり、その前で子どもたちがタッチ・フットボールをしている。

すると突然、ボールが家の窓に飛び込み、テレビを直撃してしまう。小さな家のなかから、年とった男がしかめっ面で、歩行器(ウォーカー)を押しながら出てくる。男は紙に赤いマーカー(マーク)で「フットボール禁止」と書き、家のドアに貼り付ける——練習を積むうちに、こうした視覚的イメージを1~2秒で思い描き、ずっと覚えていられるようになるだろう。

年齢と記憶力

残念ながら、記憶力は年齢とともに衰える。しかし、これが当てはまるのは「純粋な意味での」記憶、つまり精神心理学的機能としての記憶の場合であって、実際の記憶力は年齢とともに衰えるどころか、(健康に問題がない場合は)実際にもっとよくなることすらある。

記憶力が高いか否かは、どれだけ関連付けができるかにかかっている。そして関連付けをするための情報は、経験を積むなかで蓄積されていく。日記をつけたり、仕事内容や考えたことを書き記したり、大量の情報を扱う方法を学んだりしながら、重要なこととそれ以外のことを区別できるようになっていく。記憶術は記憶力の維持にも役立つのだ。

諜報部員なら知っておいて損はないことだが、年をとると、つい最近のことは思い出せなくても、一生かけて学んだことは覚えている。職業的なスキルは、ずっと失われることなく保たれる。退役軍人にしても、姿勢や歩き方を見ればすぐに軍人だったとわかるものだ。(了)

 

 

 

 

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