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【要約】まるわかり FinTechの教科書

まるわかりFinTechの教科書





 

米国発祥で世界を揺るがす「FinTech(フィンテック)」(金融[Finance]と技術[Technology]を組み合わせた造語)革命の波は世界に波及し、日本でも 2015年前後から盛んに報道され始め、旧態依然とした金融サービスをITの力で変革しようとするフィンテック関連ベンチャー企業が取り上げられるのを目にする機会も増えてきた。

 では、そうしたフィンテックの波はなぜ起こり、どこへ向かうのか。あるいはブームで終わってしまうのか。本書はそんな疑問に答えてくれる一冊だ。現在、日本発のフィンテックサービスも次々生まれているが、実は日米では金融を取り巻く環境は異なる。例えば日本では欧米に比べ金融基盤の安定性が高く、銀行など金融機関への信頼感も強い。

 それゆえ、リーマン・ショック震源地となり、金融不信が根強いアメリカだけ見ていても、今後の「日本版フィンテック」の未来を見誤ってしまうのだ。そこで本書では、日本の金融関係者への取材や「フィンテック法案」と呼ばれる銀行法の改正など、日本ならではの事情も丁寧に拾い上げている。

 著者は日刊工業新聞社記者を経て、現在は金融タイムス記者として活躍する、IT業界と金融業界への深い洞察と長年の取材経験を持つ人物。本書では、フィンテックの中でも特に関心が高い仮想通貨・ビットコインおよびブロック・チェーン技術についてもわかりやすく解説され、まさに日本版フィンテックの入門書として最適な一冊となっている。

要約

銀行法改正で、日本でも本格的にフィンテックが動きだす

 フィンテックとは、金融とITが「相乗」したサービスの総称である。そんなフィンテックが今、話題になっている要因には、低価格で高性能なサービスを、身近なハード(スマートフォン)を用いて可能にしたIT技術の飛躍的な発展がある。

 フィンテック分野で活動するプレイヤーは、金融機関と大手ITベンダー企業、そしてベンチャー企業だ。「今後の我々のライバルは、GoogleFacebookになる」、米大手銀行のJPモルガンチェース銀行のCEOは2014年にこう語ったという。フィンテック革命が進展する米国では、大銀行も新たな競争相手を意識せざるをえない状況に突入しているのだ。

 欧米ではすでにフィンテックが広範囲に普及し、市場も急速に拡大している。また、インドネシアケニア、トルコなどの新興国でもスマートフォンの急速な普及を背景に、フィンテックが活用され始めている。

 それらに比べ日本は大きく出遅れているというのが、関係者の一致した見方だ。その原因として「金融機関の努力が足りなかったことももちろんだが、金融規制が厳しかったことも影響している」と、ある都銀の経営トップは語っている。

 だが日本も、フィンテックの波を手をこまねいて眺めているわけではない。「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(いわゆる「フィンテック法案」)という銀行法の改正が、2016年5月に国会で成立したのである。

 今回の銀行法改正のポイントは、①金融機関によるフィンテックベンチャーへの出資の弾力化、②仮想通貨についての制度の整備、③金融グループのガバナンスの強化(グループ内での業務の集約化を容易にし、グループ全体でフィンテックに取り組む素地ができた)の3つだ。

 ここから、「既存の金融インフラは徹底して守る」「そのうえで、既存の金融機関がフィンテックに積極的になるための基盤を用意する」という金融庁の姿勢が感じられる。

 日本の金融(インフラ、サービス)の安定性は、世界でもずば抜けている。金融サービスに対する不満が多いアメリカでは、新興ベンチャーによるフィンテックサービスが開発され、支持された。アメリカと日本とでは背景となる金融事情が異なり、それらを踏まえて本格的に「日本版フィンテック」を後押ししようというのが、今回の銀行法改正の主眼である。

仮想通貨ビットコインの実像とブロックチェーンの可能性
 仮想通貨(暗号通貨=Crypto currency)は、フィンテックの今後を見据えたとき、最も革命的な分野と目されている。金融庁が2015年末にまとめた銀行法の一部改正案のなかで、仮想通貨について1項目を割いたことからも、その注目度がわかる。

 今回の改正法では登録制を導入するなど、仮想通貨の「取引所」についての規制を盛り込んだだけで、仮想通貨そのものの規制については言及していないが、一般の関心は今動いている仮想通貨・ビットコインに集中している。

 ビットコインは、インターネット上の「取引所」で円と交換して手に入れることができ、ゲームのコインと異なるのは、「取引所」を介して、現実の通貨とリンクしている点だ。ビットコインには法定通貨電子マネーのように明確な発行者が存在せず、ビットコインというシステムそのものへの信頼が価値の裏付けとなっている。

 ビットコインは端的にいえば新しいお金の発明だ。だからこそ、今後のフィンテックにおいて、重要な位置を占める可能性が無限大にある。ビットコインを成立させているキーワードとなるのが「ブロックチェーン」という技術で、簡単にいえば、暗号技術と、P2Pネットワーク技術を組み合わせて応用した、新しいデータベース技術である。

 名前にあるとおり、取引情報や、ユーザーの残高といったデータが、約10分ごとに「ブロック」と呼ばれるデータの固まりとしてまとめられる。このブロックを改ざんできないようにして、次のブロックに組み込み、さらにその情報が次のブロックに組み込まれる。こうしたブロックのつながりがブロックチェーンだ。

 不正アクセスを行うためには、過去のブロックも解読する必要があるが、その最中にもさらに新しいブロックが次々追加されているため、改ざんなどの不正が成功しない。そして、それこそが、ビットコインの通貨としての信頼性にほかならないのだ。

 米国のフィンテック企業「R3CEV」は、世界各国約40社の金融機関が参加するコンソーシアムを主導し、IBMインテルがそれぞれ構築したブロックチェーンを、金融業務に応用するための実証実験を行っている。このように、既存の大手金融機関はこぞってブロックチェーンの技術に注目している。

 また、不正アクセスやデータ改ざんが行われにくいこのデータベース技術は、医療や公共サービスの分野にまで活用される可能性がある。ブロックチェーンは、フィンテックにとどまらない可能性をはらんでいるのである。

日本版フィンテックを支えるベンチャー企業
 日本国内で活躍するベンチャー企業では、例えば「お金のデザイン」(東京都港区)が2016年2月、新しい資産運用アプリ「THEO(テオ)」を発表した。THEOはこれまで富裕層や機関投資家だけが享受してきたプロレベルの資産運用を、スマートフォンから誰でも低コストで利用できる資産運用サービスだ。

 最新の金融工学アルゴリズムに基づく独自のロボットアドバイザーによって、簡単にグローバル資産運用を始めることができるのがウリで、いくつかの質問に答えると、約6,000のETF(上場投資信託)のなかから、たった2分で最適な分散ポートフォリオを提案する。

 運用開始後は、毎月のリバランス、定期的なリアロケーション、年齢に応じたリバランスを行うことができ、10万円から始められていつでも解約できる。肝心の収益率だが、過去8年間のシミュレーションに基づき年率換算すると5.6%という高い利回りが見込まれるという。

 また、「マネーフォワード」(東京都港区)は、日本のフィンテックの代表的企業と目されている。350万人が利用しているという同社の個人向け自動家計簿・資産管理(PFM)アプリ「マネーフォワード」は、簡単にいえばクラウドを利用した無料の家計簿アプリである。

 従来の家計簿ソフトと一線を画す大きな特徴は、2,580社以上の金融機関と連携し、銀行、クレジットカード、電子マネー、年金、証券、ネットショッピング、携帯料金など、お金の出入りに関する複数の口座情報が一元管理でき、それらが自動更新されることにある。

 つまり、利用者はマネーフォワードのページに入るだけで、家計簿作成から節約、貯金、さらには資産運用、携帯料金の見直しまで、お金にかかわるすべてを管理できる。端的にいえば、これがフィンテックだ。個々の金融機関間の「壁」が、IT技術によってなくなったのである。

 他にも、2012年7月に創業した「freee」(東京都品川区)が提供する無料から使える「クラウド会計ソフト freee」は、簿記の知識がなくても簡単に使えるクラウド型会計ソフトだ。銀行口座やクレジットカード明細を自動で取り込むことで、記帳作業を自動化でき、日々の経理作業をおよそ50倍(同社実測値)に効率化できる。

フィンテックに向き合う金融機関の本気度

 では、大手都市銀行は、フィンテックにどのように取り組んでいるのだろうか。例えば、みずほフィナンシャルグループで注目すべきなのは、2015年12月から積極的に行っているフィンテックベンチャー企業との連携だ。「クラウド会計ソフト freee」のユーザーを対象に、ユーザーのデータを分析・コンサルティングするサービスの検討を開始した。

 また、マネーフォワードとは2016年3月、法人向けクラウド型給与計算ソフト「MFクラウド給与」とみずほの決済サービスを組み合わせ、給与支払い事務の自動化機能を提供する。メガバンクの担い手が、新興ベンチャーと、次々と手を組み始めたという動向は、今後さらに大手金融機関の間に広がっていくだろう。

 また、全企業数の99.7%を占める中小企業を地域で支える信用金庫も、フィンテックには興味津々だ。彼らが得意とする「face to face」のサービスとフィンテックは相性がいい。そもそもフィンテックとは「顧客の利便性」を追求するサービス進化であり、地域密着ならではのサービスが生まれる日も遠くないはずだ。

 実は今後の金融界を大きく動かす可能性があるのは、既存の金融機関だけではない。インターネット通販の楽天や米Amazonが始めた出店者への融資事業が、フィンテックの先行事例として注目されている。またインターネット比較検索サイトを運営するカカクコムも、2016年中に中小通販業者の資金繰り支援サービスを開始すると発表した。

 彼らの強みは、出店者の過去の売り上げ推移、取引履歴、消費者の評価などのデータをすべてもっていることにある。金融機関に頼らなくても、店子の信用を把握、精査できるのだ。アマゾンジャパンは2014年2月から、法人向けの融資サービス「Amazon レンディング」の提供を始め、ローン申し込みから最短 5日で運転資金の調達が可能だ。

 フィンテックによって金融業は「サービス業」になる。インターネットによる消費者向けサービスにおいて、世界でもトップクラスの実績をもつ彼らが本気で金融業に乗り出してきたとき、フィンテックはさらに次の段階に進むことになる。

 

 

 

 

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